exhibition archive | 菅谷奈緒 "randonneur"
菅谷奈緒 "randonneur"
2009.10.10(sat) - 31(sat)
菅谷奈緒の個展“randonneur”は、彼女の自転車旅行をベースとしている。日本全国に散在する「ふるさと」と銘うたれた奇妙な施設群。それらは、確かに日本の古き佳き故郷をイメージさせるような地域には建っているのだが、むしろその存在こそが、謳おうとしているイメージをぶち壊しにしてしまう。こうした施設群を「ランドナー」と呼ばれる旅行用の自転車で訪ねていく菅谷。小さな列島とはいえ、自転車で巡るにはあまりにも広範囲に分布したそれらを訪ねようという意欲とエネルギーを彼女はどこで手にしたというのだろうか。彼女はそれに直接答えることはなく、淡々とイメージ、映像、音を採集し続けていく。「ふるさと」に向かえば向かうほど、むしろ「ふるさと」から遠ざかっていく菅谷。彼女のランドナーでの旅は、進めば進むほど、残りの旅程が増えてしまう奇妙な旅だ。そしてまた、彼女が実際に使用したランドナー越しに彼女が採取したのものに触れていくとき、わたしたちもその奇妙な旅に呑み込まれていくことになる。


80年代後半、ふるさと創生事業と名づけられた地域活性化プランが浅はかな政治家によってぶち上げられ、ばらまかれた一億円をもてあました地方自治体はグロテスクな施設群にそれを投入していった。日本全土に形容不能なものが繁茂していく。かくて、故郷は再生されるどころか、後戻り不能なキメラと化して、列島のそこここで数奇な運命に身をゆだねていくことになる。あるものは適度な都市化を進めて都市の周辺に堕し、あるものは存在そのものをなかったかのように忘れ去られ、そしてまたあるものはその滑稽さとお粗末さで都市の笑いものにされていく。故郷はますます遠ざかり、わたしたちは望郷の念をさらに募らせることになるものの、結局その想いが充たされるということはない。


ピストやミニベロのような今日の流行の自転車というよりは、日本にサイクリングという概念が入り始めた時期にはやった少しレトロなランドナー。小旅行用の自転車としてフランスで生まれたとされるその由来とは裏腹に、彼女の旅は長く、いや終わりがなさそうだ。決して辿り着くことのない旅。けれどもそこには、いやだからこそそこには、望むべきものに向かっていこうとする彼女の意志が姿を現してくる。小旅行のような気軽なつもりで出かけるにせよ、わたしたちも、勇気を持って本当に望んでいるものの方に歩んでいくべきなのかもしれない。


会期:
2009年10月10日(土)~10月31日(土) 月・火曜日休み 13:00~19:00